音律という言葉は聞いたことあるでしょうか。
平均律は?純正律、ピタゴラス音律、それ以外にもたくさんあります。
バイオリンをやっている人や、音について突き詰めて勉強している人は聞いたことがあるかも知れません。
今回は、それらの音律の簡単な定義と、実際に音で聴いて違いを体験してもらいたいと思います。
オクターブの分割
現代では、音の高さは1オクターブ=12半音が使われています。
ド、ド#、レ…シ♭、シですね。
※ちなみに、国によっては1オクターブを7半音に分けているところもありますが、こちらは12半音のうちいくつかピックアップしている、例えばヨナ抜き音階とは別物です。
そもそも、なんで12なんでしょうか?
実は、科学的な理由があります。
ピタゴラス(紀元前582年 – 紀元前496年)をご存じでしょうか?高校数学では、ピタゴラスの定理というものを習いましたが、あのピタゴラスです。
あのピタゴラスが、弦の長さを1/2にすると1オクターブ上の音が出ることを発見したんですね。更に、1/3(または2/3)なら五度です。1/3は三倍音ですね。これをラの1/3はミ、ミの1/3はシ…というように繰り返し、最終的に12半音ができました。(※倍音の話はこれは正確ではないのですが、イメージとしてそういうものと今は思って下さい)
余談1)実はこの作り方だと、最初の音と1オクターブ上の音が少しずれます。これをピタゴラスのコンマというそうです。
余談2)ピタゴラスは万物は突き詰めればシンプルであると信じていたようで、無理数(分数で表せない数)を弟子が発見した時、弟子を処刑してしまったそうです。そもそもピタゴラスが発見したルート2自体が無理数だった、という皮肉もあるのですが…
ピタゴラス音律
三倍音を繰り返して作った音律を、ピタゴラス音律といいます。グレゴリオ聖歌の時代はまだピタゴラス音律だったそうですから、かなり長い間使われていた音律でした。
ところで、昔は3度の音(例えばドとミ)は調和しない音だったそうです。現代からすると、「え、なんで?」って思いますよね。
実は、ピタゴラス音律では3度の和音は調和しない音なのです。
調和しないってどういうこと?疑問に思った人もいるでしょう。こちらは後で実際に音を聴いて体感してもらいますので、今は「調和しないんだ~」くらいに考えてください。
音のうねり
綺麗な整数比になる音は調和する、というのは聞いたことがある人も多いかも知れません。1/2とか、1/3とかですね。
では、綺麗な整数比にならないと、実際どうなるのでしょう?
わかりやすい例を作ってみました。ラと、ラよりちょっとだけ高い音の和音(?)です。
最初2秒ラ、その後2秒ラよりちょっと高い音、その後前の二つの和音(?)です。正確には、最初の音は442Hzの音、次は452Hzの音です。
二つの音が重なると、プルプルプル…という唸りが聴こえると思います。これが「調和しない」正体です。
参考までに、442Hzと443Hzも作ってみました。
こちらは、先ほどのものと比べ唸りの周期がゆっくりとしています。
純正律 ~3度もきれいに響かせたい!
さて、ピタゴラス音律の3度は調和しない、と言いました。
せっかくなので、ここでピタゴラス音律の3度を聴いてみてください。
よーく耳をこらさないとわからないかも知れません。先ほど体感して頂いた「唸り」が聴こえてきませんか?
5度の場合は、「完全5度」というように、ピタゴラス音律でも綺麗に調和します。ですが、3度は調和しません。
でも、3度もきれいに調和させたい…ということで生まれたのが純正律です。ちなみに、ピタゴラス音律の5度と純正律の5度は一致します。(どちらも全く同じ音です)
ピタゴラス音律では3倍音で音を構成しましたが、純正律では5倍音も使います。基音の5倍音は、ちょうど2オクターブ上の3度の音になります。
実際に聞いてみましょう。
どうでしょう?ピタゴラス音律のような唸りはなく、綺麗に響きます。
じゃぁ純正律最高!になるのでしょうか。実は、純正律にも弱点があります。
もともと純正律はピタゴラス音律にちょっと手を加えてできた音律です。どうしても、ピタゴラスのコンマが邪魔をするのです。
どういうことかというと、調(ハ長調とは、ト短調とかですね)が変われば、全く同じ音名でも、高さが微妙に変わってしまうんです。
要は、どの音を基として、12音作っていくかで、結果同じ音名でも微妙に違う音ができるということです。
平均律の誕生
純正律までで正確な音を出そうとすると、バイオリンのように奏者が自由に音を変えられる楽器でないと、調律した調以外の曲が弾けないことになってしまいます。曲の途中で転調するとか、もっての外ですね。
そこで、同じ調律で様々な調の曲を自由に弾けるように、平均律が作られました。
平均律では、全ての音の間隔が等間隔です。代わりに、綺麗な調和を捨て、いつでも好きな調をそれなりに綺麗に奏でられる、妥協を選びました。
今現在耳にするほとんどの音楽は平均律が使われています。ピアノやギターは平均律の楽器です。
正直、ピアノやギターを弾く人は音の唸りなんてあまり気にしないと思うので(常識の範囲内であれば)どうでもよいことでしょう。
それがいい悪いの話ではありません。
さて、せっかくなのでピタゴラス音律/平均律の五度と平均律の五度を聴き比べてみましょう。
まずはピタゴラス/純正律の5度です。うん、綺麗ですね。
続いて、平均律の5度です。
いかがでしょうか。ちょーっとだけ唸りがありますね。ただ、正直気にしなければ全然気にならない範囲だと思います。
おまけで、平均律の3度です。
どの音律がいいの?
今あげたピタゴラス音律、純正律、平均律以外にも、音律は色々あります。
タイの7平均律のようなものは除外するとしても、純正律と平均律の間で、色々な音律が試行錯誤されました。
例えばウェル・テンペラメントは純正律をさらに進化させようとした音律で、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」は実はこの音律を想定して作られた、なんて話もあるくらいです。
さらに、純正律に対応できるよう、1オクターブを53に区切ったオルガンが開発されたこともあるようです。こちらは、奏者のテクニックが追い付かず、普及しなかったようです。(そりゃそうですよね)
以上のことをまとめると、綺麗に聴こえること、演奏の現実性を考慮する必要がありそうです。
答えを言ってしまえば、どの音律がいい、ということは実はどうでもよく、弾き手・聴衆が満足できる音程がベストなんだと思います。
バイオリンも通常メロディラインはピタゴラス音律で弾き、伴奏は純正律で弾きます。ピアノ等平均律の楽器と合奏する際はそれに合わせます。
この時バイオリン奏者が考えることは、どの音律が…といった小難しいことではなく、綺麗に聴こえる音を選ぶ、ただそれだけです。
まとめ
音楽は、こうじゃなきゃいけない、という絶対的な指標はありません。
弾き手・聴衆双方が一番満足するのが正解だと思います。
私のバイオリンの先生も、多分こういった小難しい話はあまり知らないと思います。知らないと思うけど、長年の訓練を通して、その都度一番きれいに聴こえるような音を出す技術を持っています。これって、理屈を知っていることよりも何万倍も素晴らしいことだと思います。
また、理屈を知って耳を鍛えれば、細かい指摘をすることもできると思います。
ですが、それには何の価値もなく、逆に音楽の楽しみを減らすことだと思ってます。
全ての音律を完璧に聞き分け、唸りの全くない音しか満足できなくなってしまえば、ピアノもギターも汚い音になってしまい、楽しめなくなってしまいます。
それって、自分にとってもマイナスでしかないですよね。
ちょっとした雑学としてや、バイオリンを練習していて音程がよくわからない…なんて場合はこういった知識がプラスに働くこともあると思います。
ですが、過ぎたるは及ばざるがごとし。
音楽を楽しむ、ということを第一に考えるのが、私は正解だと思います。