バイオリンの弓の毛替えの仕方

※2021/3/26 大幅更新
※2021/8/23 そこそこ更新
※2023/3/31 増補改訂

今回はバイオリンの弓の毛替えの仕方を紹介しようと思います。
普通、毛替えは職人さんにやってもらうので、自分でやろうと思うのは一部の奇特な方だけでしょう。

そういった、(私を含めた)一部の奇特な人への情報提供と、そうでない一般の方に、毛替えってどういうことしてるの?といったことを伝えられたらと思います。

途中色々と端折っていますが、できるだけ情報は細かく伝えたいと思います。

弓毛の入手

まずは、毛替え用の毛はどうやって入手するのか?ここからだと思います。
答えを言ってしまえば、私はebayで購入しています。250gが送料込みで4000円ほどで買えます。バイオリンの毛は大体6~7gなので、30本以上毛替えできます。

それ以外でも、ヤフオク等いろいろなところで購入できます。職人さんが買うようなお店の場合、上等なものを扱っているので、おそらくもっと高価になるかと思います。

ちなみにメルカリとかで結構高く売ってる方もいるので注意してくださいね。
ebayとかで安く買って、仕入れ値の何倍もの値段で売ってる方もいるので…

なお、毛は、弓1本分ずつ束ねた状態で売られているものもあります。
こちらの場合、分数用の弓などで毛量を調整するのが面倒なんですけど、4/4用ならいちいち毛束作らなくてよかったりするので楽です。(私は最近こっち推し)

毛替えのファーストステップ

さて、交換用の毛は入手できたこととして、実際に毛替えの方法を伝えたいと思います。その前に、必要な工具や材料等を書きたいと思います。

・のこぎり、小刀(または太めのカッターナイフ)
 楔を作るのに使用します。毛替え前の弓についている楔を上手に外せ、再利用する場合は不要です。のこぎりは歯が細かいものが使いやすいです。また、小刀の代わりにカッターナイフ(太いやつ)でもよいです。彫刻刀もあるとよいです。
・きり
 楔を抜くのに使います。千枚通しとかそういうのでも大丈夫です。
・ 固めの木
 楔を作る場合に必要です。私はバイオリン工房で分けてもらった山桜の木を使っています。固いといっても黒檀とか紫檀だと厳しいので、中程度の固さの木材がいいんじゃないかと思います。
 こちらも、楔を再利用できる場合は不要です。
 以下のサイトみたいに、木の固さを紹介しているサイトもあるので、参考にしてみてください♪
 https://mokuzaikan.com/member/muku-item/entry-11219.html
・松脂の粉
 松脂の粉は、松脂を砕いて粉上にしたものです。毛束がほどけないようにするために使用するの必須です。
・丈夫な糸
 私はジーンズ用の糸を使っています。弓毛を縛るときに使います。
・櫛
 弓毛をとかすのに使います。
・石鹸
 ないならないでいいです。フロッグのスライドをはめる際に使用します。
・木工用ボンド
 これもなくてもいいです。

他、あると便利な道具や治具もありますが、大まかにはでしょうか?

まずは、分解

まずはフロッグ側を外します。半月リングですね。私はゴム製の手袋をはめて引っ張ってます。それで大体取れます。写真の弓は素手で行けました。なかなか取れない場合は、毛を引っこ抜くと外しやすくなります。
それでも取れない場合は、ペンチ(間に傷つかないように何かはさみますが)でぐりぐりしながら外します。この時、木の部分が折れないように注意してください。
※特に、フロッグがプラスチック製の場合割れやすいので慎重に行ってください。どうしても外れない場合は、毛をペンチで抜くなどして少しでも抵抗を減らすようにします。

こちらは無事外れた状態です。

続けて、スライドを外します。
こちらもゴム手袋をはめた指で押して外します。
頑張っても外れない場合は、テープをつけて引っ張る等工夫します。
行きつけの工房では、最終手段として一番奥の部分にのみをあてて金づちで叩いてました。

無事外れました。この弓はここも素手で行けました。

半月リングが外れたら、リングがあった部分にある楔を外します。
こちらは安い弓だと接着剤でがちがちに固められていることがありますが、工房などでも気持ち程度接着剤をつけることがあるようです。
楔が剥がれてフロッグについてしまったら、彫刻刀ややすりなどで丁寧に落としましょう。

お次はこの楔を外します。安い弓だと楔ではなくネジで止められていたり、楔が接着剤で止められていることもあります。通常は木の楔が木の摩擦だけで止められています。

隅っこを千枚通しなどでえぐって取るのですが、今回の弓は楔がかなり奥まで打ち込まれていたため、最終手段です。

楔にドリルで穴をあけ、ネジを入れてペンチで引っ張ります。
失敗すると楔が壊れますが、だいたいこれで取れます。
(工房では楔は作り直すのが基本です)

ちなみに、場合によっては(ものすごく安い弓)では接着剤で固定されている場合もあります。この場合は彫刻刀等で削り落とします。

ここまでの作業の動画を取ってみました。
写真とは別日に撮ったものなので、違う弓ですけど。参考になれば♪



さて、フロッグの楔が取れたら次は先端です。

こっちも外し方はフロッグと同じです。

そういえばこの弓、以前メンテナンスした時に楔を割ってしまっていました。
そのまま何となく使ってたけど、次は無理です。

ちなみに、こちらも接着剤が使われている場合があるので、その場合は彫刻刀等で削ります。
こちらの様子も動画に撮ってみました。

毛束の作成

ここでいったん弓を離れて弓毛の束を作ります。
片端が束ねられて売っている状態のものもありますが、そうでなければ自分で束ねます。

私の場合、3/4以上なら大体160本、1/4とかなら130本とか量を調節しています。
購入時すでに束ねてあるとこういう調整が難しいですね。
なお、先端の毛箱が小さい場合は上記よりもさらに毛を少なくする必要があります。

毛束を作るときは、毛の向きに注意してください。付け根側と先っぽです。見た目で分かりにくいですが、基本的に汚かったり色が濃かったり、先細りしているのが先っぽです。弓毛は、必ず付け根側で束ねてください。(理由は後述)

ちょっと写真がなくて恐縮ですが、束ねた部分を糸で巻く際、糸で結ぶ部分に松脂の粉を擦り込みます。そのうえで糸で縛ります。

糸で縛る場合、私はまず以下のように縛ります。

実際の糸だとみにくいので、棒が毛束、線が糸だと思ってください。くるっと3回くらい回して、両端をぐっぐっと引っ張ります。弱すぎると毛が外れやすく、強すぎると糸が切れます。なお、この時糸を水でぬらすときつく締めれます。

こうやって一回結んだあと、糸を3周くらいぐるぐる巻いて、再度上の縛り方をします。最後に、糸の両端を団子結びします。余った糸は切って下さいね。

これができたら、余った毛を5mmほど残して捨てます。
そして先端を一度水につけた後、松脂の粉をつけ、ライターなどの火であぶります。
こうすることで、毛に刷り込んだ松脂と、あとからつけた松脂が溶けて、毛を強く固めることができます。先に水をつけておかないと、糸や弓毛が燃えるので注意してください。火であぶる時間は感覚ですが、私の場合5~10秒ほぼあぶり、再度水と松脂をつけて同じくらいあぶります。
この後、熱いので注意しながらですが、先端を指で丸めます。(松脂が柔らかいいうちに小さくするため。)

ちなみに、後ほど出てくる動画で、ヘッド側の毛を縛っているところがあります。
イメージがわかなかったら、そちらを参照してください。やり方は一緒です。

楔の作成

楔が再利用できない場合、作ります。
最初の工程で綺麗に楔が外せて、再利用可能な場合はこの工程はすっ飛ばすことができます。

楔に使う木は、固い木なら何でもよいようです。写真はバイオリン工房で分けてもらった山桜の木です。こちらの工房ではいつも山桜を使っているという訳ではなく、なんでもお客さんがホームセンターに行ったらいろんな木が安く売ってので送ってくれたそうです。分けてもらったのはそのうちの一つ。

楔は全部で三つあります。外したものが再利用できるならそれでもいいですが、割れちゃったりとか再利用できなければ作ります。

弓先とフロッグ内部の楔の形は、以下のように平行四辺形で作ります。下図の上は弓の先端、真ん中はフロッグの楔です。どちらも弓毛を張ったとき、図の向きで上方向に力がかかるので、この斜めがいい感じにひっかかって?抜けなくなるというすんぽーです。

一番下は半月リングの部分の楔です。右は上から見た図です。
また、奥の方(図の上方、短い部分)は厚さを少し薄くします。
ちなみに、この楔厚さをきれいに作るのが難しいので、私は失敗したらペンチでつぶして整えてます。

実際に作り土岐は、のこぎりで大まかに切って、その後は小刀で整えます。
ちなみに、小刀より太いカッターナイフのほうが使いやすいなぁと思い、最近はカッターナイフをよく使います。

あんまりうまくできなかったけど、まぁいいか。ここで、楔の上部分が穴と平行になることが大切です。
また、写真下側は毛箱と同じ大きさにならなくてもよいのですが、上側は両端が隙間なくつくようにしてください。

ほかの楔の作成過程は省略します。

フロッグ側の取り付け

次はフロッグに弓毛をつけています。写真中央のやつは、いらない弓を半分に割って作った治具です。

上図のように、フロッグの金具をつけたまま作業できます。

フロッグに弓毛を取り付ける前に、毛に半月リングを通します。
半月リングには後ろ前があります。下部分がちょっと削れているのが前(フロッグと逆側)です。

フロッグに毛を入れて楔を入れます。この後、金づちでさらに打ち込みました。

次はスライドを入れるのですが、スライドの裏面に石鹸を塗ります。
スライドをはめるときに弓毛と接触するのですが、その部分の摩擦を減らすためです。
(こうすることではめやすく、また次回交換するときに外しやすくなります)

スライドを入れている途中です。

スライドを入れ終わったら半月リングをはめます。

そのあとに半月リングの楔を入れます。この時、弓毛が均一になるように整えます。行きつけの工房では、楔とフロッグ間に、つまようじの先ほどちょこんと木工用ボンドをつけていました。(私は面倒なのでやってません)

なお、フロッグ内で弓毛がたるんでいるので、この後弓毛をたくさん引っ張ります。
引っ張ると中の毛と一緒に楔がちょっとでてくるので、また押し込みます。毛を引っ張りながら押し込むといい感じです。

ここまでの動画はこちら。

終わったら、弓毛を櫛でよく梳いて、水につけて5~10分置きます。

動画はこちら。

毛の長さ調整

さて、次は弓毛のもう片方をちょうどよい長さで縛る作業です。ここが一番難しいです。
フロッグを弓に装着して作業を行います。この時、フロッグのねじは外れる限界(フロッグが一番先端に近い位置になるように)にします。

写真右はお手製の治具です。弓を固定します。

弓毛を櫛で解かしながら、均一に張るよう引っ張ってに整えます。
写真では少したるみがあるのがわかるでしょうか?これはNGな状態です。

ちなみに、弓毛を逆に束ねてしまった場合、キューティクルを逆なですることになるのか、櫛を通せば通すほど毛がまとまらなくなる、という悲しい運命をたどります。(毛を水につけておく時間が短くても同じ運命をたどります)

さて、作業にいっぱいいっぱいで写真が取れなかったのですが、写真は毛を結んだあとです。
毛を結ぶ場所は、毛箱の端から5mmくらい離れたところがよいようです。
結び方は、先に書いたのと同じです。

ちなみに、今はこんな治具使ってます。
毛を縛るとき、片方が固定できると楽なんです。
歯で噛んで固定する方もいますが…
写真は撮り忘れ、動画にも映ってないので別で撮った写真ですがこんな感じです。

ちなみにこんな風に動くので、弓の長さに合わせて位置を調節できます。

ここまでの動画はこんな感じ。
毛束を火であぶる様子は次の動画にあります。

ヘッド側の取り付け

写真を撮るの忘れたのだけど、その後フロッグを弓から取り外します。
そして、弓毛を弓の先端に入れ、楔を打ち込みます。
その後、フロッグを取り付けます。

詳しくは動画をご覧ください。

最後の作業

そして最後の地味だけど重要な作業。
先ほどの動画で出ちゃってますけど。
弓毛を半分くらいで分割し、つまようじか割りばしなどを挟んで以下のように逆側に張ります。そして、フロッグのねじを少し締めます。

何故こうするかというと、実は先端の楔を打っても毛の長さが均一になりません。
なので、こうやってあえてさらに毛の伸びを促すことでより均一に張れるようになります。
裏側に持ってくるのは、弓のバネを弱めないため、という理由もあります。

これで毛が乾くのを待って、作業完了です。

と、何となくそれっぽくやるのは実は簡単です。
ちょっと器用な方なら素人でもできます。

ただ、他の記事にも書かせていただいた通り、毛の張り具合の均一性や、弓毛が交差しないようにやろうと思うと、なかなか難しく、確かに職人さんじゃないと厳しいな、という感じです。

それでも自分でやってみたい!という方は是非トライしてみてください。