バイオリンを純正律で調弦する

今日、バイオリンのレッスンで、先生より「A線とE線は443Hzで調弦して」との指示かありました。クロマチックチューナーで調弦をする際の、周波数の指定です。今までA=442Hzでやっていたのだけど、これからはG,D線はチューナーの設定をA=442Hzに、A,E線はA=443Hzに設定して、との指示です。

ちょっと?と思う指示だったので、計算してみました。

今回の記事は、計算結果の共有です。

なお、一般的に音楽は平均律で演奏されますが、バイオリンを含む弦楽は純正律で演奏されます。(厳密に言うと、メロディはピタゴラス音律や平均律で、伴奏が純正律です。世の中にはメロディも純正律、と言っている人がいますが、メロディを純正律で演奏してしまったら気持ち悪いことになります)

この辺の話は「平均律、純正律、ピタゴラス ~音律の話」にまとめてますので、良ければご覧ください。

純正律と平均律の違いって?

簡単に言うと、純正律は3倍音を基本として作ったピタゴラス音律に少々手を加えて作った音階です。例えばドの三倍音は(オクターブ上の)ソです。ソの三倍音は…という事を繰り返して作っています。ただし、この作り方だと一部の音と音の幅が一定ではなくなります。理論的にはこうなんですが、実際の演奏だと多分耳で聞いて違和感のないように若干の調整をしているはずです。純正律は、このピタゴラス音律で調和しない3度の音(例えばドとミ)に5倍音等を導入して響きを改善したものです。純正律だと各音の幅がさらに異なり、さらに言うとレ#とミ♭の音が違う、といったことも起こります。

対して、平均律は全ての音の幅を一定にした音律です。具体的には、その前の音を2の12乗根倍して作っています。平均律では、純正律ほど和音がきれいに響かないですが、レ#とミ♭の音が違う、といったことも起こらず、転調しやすい等非常に使いやすい音律になっています。ピアノもギターも、平均律です。

チューニングする

さて、ギタリストやバイオリン初心者はチューナーを使用してチューニングしていると思います。先ほどバイオリンは純正律と書きましたが、市販されているチューナーは、平均律になっています。これがどういうことかというと、チューナーでバイオリンを調弦すると、正しい音に調弦されない、という事です。

上級者なんかはAだけ音叉やチューナーを使い、ほかの音は重音で合わせていると思います。これは、純正律の合わせ方になります。(厳密に言うと、ピタゴラス音律の合わせ方ですが、5度はピタゴラスも純正律も同じ音なので問題ありません)

冒頭に書いた、 「A線とE線は443Hzで調弦して」 とは、「平均律のチューナーを用いて純正律で調弦するための試み」な訳です。

この後実際の計算方法など書こうと思いますが、一旦ここで結論だけ書いてしまいます。

「A線とE線は443Hzで調弦して」 という指示は、A=443Hzにしたうえでの、へ純正律の近似です。ですがバイオリンの世界ではA=442Hzがよくつかわれます。

A=442Hzで固定した場合、D,A,Eを442Hzで、Gを441Hzで調弦すると、上記と同じ効果が得られます。ただ、先ほどの例もこちらの例も、E線が少し低くなるので、EをA=443Hzで調弦してもよいかも知れません。

更に厳密に行おうとするなら、すべての弦をA=442Hzにして、Gを-4cent、Dを-2cent、Eを+2centするとさらに純正律に近くなります。

centとは、半音を100分割した値で、実際の比率は2の1200乗根になります。チューナーでは以下の図(KORGのサイトより拝借)のように、メーターの上部分に書いてありますね。

計算してみる

計算結果が上の図なわけですが、純正律の場合、5度上がると周波数は1.5倍になります。5度下がると、2/3倍になります。それが上図左上の図ですね。

平均律の場合、5度(=7半音)上がると周波数は2の12乗根の7乗になります。5度下がると、2の12乗根の7乗分の1ですね。これで計算したのが、上手右上の図です。A=441Hz~443Hzで書いています。黄色く塗っている部分は、純正律に近い周波数のものです。

Eについては、A=442Hzの場合-0.75Hz、A=443Hzの場合+0.75Hzでどっちでもいいんじゃない?と思っちゃいそうです。ですが、周波数の差は音が高くなるにつれ広がっていくので、「どちらの方がずれが少ないか?」という視点で考えると、A=443Hzの方が近いわけです。(※あくまで理論上ですよ!実際に耳で聞いてもわからないと思います)

下の大きな図は、A=442Hzの時に、数centずれた場合の周波数です。+1centの周波数は、0centの周波数×2の1200乗根、です。

こうしてみると、Gは-4cent、Dは-2cent、Eは+2centするとだいぶ近い値になるのがわかります。

なお、先ほどのチューニングメーターですと、ここまで細かいcentは図りにくいので、感覚的に「ちょっと針が低い/高い方に触れる」くらいの感じになってしまいます。※ちなみにバイオリンの先生はチューナーを使う際はこのような方法で調弦していました。

最後に

このような記事を書いていると、バイオリンが上手な人から「てゆーか耳で調弦しなよ!」と突っ込みを受けそうですが…もちろんそれが一番大切ですが、最初のうちは正しい音なんてわからないので無理な話です。

そういった事情もあり、チューナーでの調弦を指示しているバイオリン教室もあることと思いますが、やはり「まずは耳で調弦して、その後答え合わせができる」と、安心しますよね。

今回の方法はあくまで近似にはなってしまうのですが、多分市販のチューナーでできる近似はこれが限界です。最終的には耳で調弦できることを目標にしつつ、一旦こちらの方法で答え合わせする、という練習もよいのではないでしょうか?