バイオリンの弦の話

今回はバイオリンの弦の話です。

バイオリンの弦と一言にいっても、大きく3種類あります。

・ナイロン弦
・スチール弦
・ガット弦

ナイロン弦でいえばクラシックギターもナイロン弦ですが、クラシックギターのものとは違います。クラシックギターの1~3弦は裸ナイロン弦、要するにナイロンむき出しですが、バイオリンでナイロン弦と言ったら、ナイロンを芯材に使い、周りをアルミや銀などの金属で巻いて重くしたものです。

バイオリンの弦は捨てるな

いきなり脈絡ない話ですが、特にギター経験者なんかは「えっ」と思うことなので最初に書きたいと思います。ギターなんかの場合、弦は交換したらすてちゃいますもんね。

勿論、バイオリンの弦も切れたり巻いてある金属がほつれたりしたら捨てますが、そうでなければスペアとしてとっておいた方がいい理由があります。

理由の一つは弦の金額です。ギターなんかであれば1セット数百円、千円もいけば高級弦ですが、バイオリンの場合普通の弦で5000円~8000円程度、何かには2万円を超えるものもあります。そのため、ギタリストのように新品の交換弦を持っていないケースも多いです。

そして、一番の理由は多くの人が使用するナイロン弦は、張った後しばらく音程が安定しないことです。クラシックギター経験者ならわかるかと思いますが、ナイロン弦は非常によく伸びます。張った直後はピッタリ調弦しても、数分後にはずれます。

感覚的に、調弦が安定してくるのは張った後1週間後です。(逆を言えば、発表会前に交換する…というケースでは、1~2週間前くらいには交換しておいた方がよいということです)

ということは、いざ弦が切れてしまった!でももう本番なのに!!なんて時、新品に張り替えようものなら、早々に調弦が狂ってしまい、残念なことになります。そんな場合でも、使用済みの弦であれば早く安定するので安心ですね。

※ちなみに、使用済みの弦の場合でも、新品ほどではないですが安定するまでにちょっと時間がかかります。個人的な感覚では、完全に安定するには2~3日は欲しいところですが、交換後1時間もすればまぁ本番の間くらいは持つかな?という印象です。

さて、続いては本題の弦の話をしたいと思います。

ナイロン弦

ナイロン弦は、先ほど書いた通りナイロンの芯線の周りにアルミや銀などの金属を巻いたものです。

バイオリンはもともとガットが使用されていたのですが、ガットは切れやすかったり湿度などに影響されやすかったり…と使いにくさがあるため、それを代替するために作られたものです。「ドミナント」なんかが有名ですね。

なお、E線に限ってはスチール弦を使用することも多いです。

ドミナントも、スチール線のE線がありますし、ドミナントを使用しつつ、E線はスチールのゴールドブラカットを使用する、というのもよく聞く話です。

ナイロン弦は音色と使いやすさのバランスが優れた弦ですが、先述の通り、交換後チューニングが安定するまで時間がかかるのが難点です。

もう一つ、やはり決して安くない値段もデメリットではあるのですが、クラシックバイオリンをやるのであれば最低限使用したい弦ですね。

スチール弦

スチール弦はギタリストにお勧めの弦ですね。

スチール弦の中には高価なものもありますが、ナイロン弦に比べ

・調弦が安定しやすい
・価格が安い
・大きな音量が出やすい

等のメリットがあります。デメリットは音質ですね。

個人的な感想では、演奏中、音程も取りやすいように感じます。多分ですが、ナイロン弦より細い分、弓の摩擦が伝わりやすく、弦の振動が安定するまでが速いのでしょうか?

スチール弦はピラストロのクロムコアなんかが有名です。

音質があまりよくないためクラシックバイオリンで使用される機会は少ないですが、音量の小さな分数バイオリンでは使用されることもあるようです。

また、安価なバイオリンは、スチール弦が張られていることが多いです。ちなみに、スチール弦の中には1セット数百円で買えるものも存在します。

ガット弦

ガット弦はごめんなさい、使用したことがないので自分の知ってる知識だけの紹介です。

テニス何かの話題で「ガット」と聞いたことがあるかも知れませんが、同じもので、羊の腸の繊維のことです。

バイオリンが発明された当時は、ガット弦がよくつかわれていたようです。今ではガット弦を使用するのはこだわりのある一部の人(プロでも少ない!)や古楽器の演奏家等ですが、民族楽器ではいまだにガット弦をメインで使用しているものもあります。

非常に高価であること、切れやすかったり調弦が安定しにくい等、デメリットも非常に多い弦です。にも拘わらずいまだに使用され、販売されているということはそれを凌駕するメリットがあるのでしょうね。

交換時の注意

最後は弦交換時の注意点について少し書きたいと思います。

ギターなんかだと弦交換は自分でやるのが当たり前、別に難しくないよ!という感じなのですが、バイオリンは意外とそうでもないです。

そして、バイオリンの場合やり方間違えるとバイオリン本体を壊す可能性があります。(大げさな話ではありません)

その理由は、「バイオリンの駒は弦の圧力だけで立っている」ということがあげられます。

つまり、弦をすべて外してしまうと駒が外れてしまうのです。まぁ、外れたら直せばいいだけの話なんですが、バイオリンにはさらに魂柱というものもあります。

上の写真、f字穴の中に棒が見えますでしょうか?これが魂柱です。この魂柱も木と木の摩擦で立っているのですが、弦をすべて外した場合、圧が弱まり、魂柱が倒れる可能性があります。倒れた場合、基本的に工房で立て直してもらわないといけません。(3000円前後でやってくれます)

なので、バイオリンの弦交換する際は、一度に全部外さず、1本ごとに外して取り付けて…とやっていきます。また、バイオリンは「駒の位置」が重要です。

上の写真の通り、f字穴の溝と溝を結んだ線上に駒が来るのが正常ですが、弦をすべて外してしまうと、この位置も狂います。(慣れた人は、ずれたら自分で直せばいいだけなのですが)

その次に気を付けなくてはいけないのは調弦です。ここが一番バイオリンを壊す可能性があります。

バイオリンの駒は先ほど書いた通り、弦の圧で立っているだけなんですが、調弦をすると傾きます。表板に対し、テールピース側が垂直になっているのが正常です。(この節の最初の写真を見てください)

糸巻を、音程が上がる方向に巻けばヘッド側に弦が動くので、それにつられて駒も傾きます。(ちなみに、駒の溝には、弦が滑りやすいよう石鹸を塗ったりします。このような処置がされている場合、駒の傾きも小さくなりますが、それでも傾くものは傾きます)

そのため、ある程度糸巻を巻いたら、駒の傾きを直してあげないといけません。

それをさぼった場合、最悪駒が倒れ、その時の衝撃で表板が割れることがあります。特に、高価な楽器ほど表板は薄くなる傾向があるようなので、高価な楽器ほど割れやすい可能性があります。

さて、怖がらせるようなことをたくさん書いてしまいましたが、慣れちゃえばなんてことない作業です。

しかし、初心者、特にギタリストなんかがギターのノリで交換しようとすると、なかなか危険なことがわかっていただけたのではないでしょうか?

ちなみに、工房でお願いすれば交換してくれるので、不安な人は自分でやらなくても大丈夫です。