お土産サーランギの修理 repair of indian Sarangi

以前入手したお土産サーランギ。
だいぶ放置していたんですが、ちゃんとしたサーランギを入手したこときっかけにメンテすることにしました。そう、修理ではなく「メンテ」が目的だったんです…だけど色々あって修理になりました…

ちなみにこの楽器、よく似ているものが以前浜松の楽器博物館に「ディルルバ」として展示されていました。違いますよ~って連絡したら、今は撤去して展示していないそうです。

楽器の状態

さて、この楽器の詳細を見てみましょう。
まず、通常のサーランギにある上部の共鳴弦と、横側上部の共鳴弦がありません。
横側下部の共鳴弦が、通常15本の所、13本あります。
が、ペグが1本足りません。

また、駒の形を見るに、演奏弦3弦+ドローン1弦でしょうか。
駒の穴を見ると、通常主弦はガット弦なんですが、金属弦を使うようです。
そして、ナットがありません。
また、演奏弦3弦+ドローン1弦も同じ高さにセットされており、弓で弾き分けるのは困難な状況です。
ちなみに、通常のサーランギは以下のような感じです。
この図では、ドローン弦について書いていないですね。

さて、まず最初に行ったことは、弦が錆びているのと、本体が汚いので、弦とペグを全部外し、本体のふき掃除です。写真には残してないんですが、雑巾が真っ黒になりました。

そして、共鳴弦をボディに通す穴の所が、柔らかい木を使ってそのままのため、弦が食い込んでいます。これを防止するために、ハトメを入れました。

ペグの作成

次は、足りないペグを作ります。
一から作るのは大変なので、ebayでインドからサーランギのペグセットを購入しました。
ほんとは1本あればよかったんですが、セットしかなかったのでセットを購入。
結局1本ではだめだったので、まぁよかったですかね。結構お高かったですけど…

で、まずはペグがそのまま使えるか?試したんですが、こんな感じでだめでした。

全然入らん…

通常これはペグシェーバーで削りたいんですが、うちにはこのサイズに合うペグシェーバーがありません。なので、簡易的にペグシェーバーを作りました。刃は、持っていたペグシェーバーの物を使いました。(あ、ちなみにペグシェーバーもebayで購入です)

どん!
これは、木材に目的の大きさの穴をあけて、刃を取り付けることでペグシェーバーを自作するという試みです。懇意にしているバイオリン工房では、職人さんがこのようにして作っていました。

ただ、これをやるにはリーマー(角度のついた穴をあける道具)も必要なんですよね。
うちには分数バイオリン用のリーマーしかないので、適当な穴をあけて雑に作りました。
その結果、うまくペグが削れず、3本折りました…
で、できたのがこちら。

ちゃんと入りました。
色が違うのは愛嬌です。他のペグも塗りなんで、塗ってもよかったんですがそこはこだわりませんでした。
で、このペグ、ほかのペグと形が違うのがわかるでしょうか?
これ実は、ほかのペグがNGで、今回追加したペグが正解なんです。
なぜかというと、細かいところにペグがびっしりあるので、手で回すのが大変なんですよね。
なので、サーランギの場合、こういう道具使って回すのが普通なんです。

こういうところがちゃんとしていないのも、これがちゃんとした楽器ではなく、お土産品であることを物語っているように思います。

弦、どうしよう?

さて、これで一通りのメンテが終わったので、弦を張ろうと思います。
いつも通り、どんな弦を張ったらいいか?を考えます。
ここで、以前も登場したこの表の出番です。

弦長は約38cm。
普通のサーランギなら、調弦は1弦からSa、Pa、Sa、ドローンは1弦と同じSaです。
インドの音階は移動ドなので、Saが何、という決まりはありません。
冒頭の表は、Sa=Dで取ってました。これは、以下の動画から拾ったものです。

何語喋ってるのかもわからなかったですけど、インド音名は聞き取れました。
これによると、1~3弦はそれぞれ、D4、A3、D3。
(※余談ですけど、コーマルは♭、シュッダの♮、ティーブラは#の意味です))
なんですけど、今回はSa=Cで取るようにしました。
ただ、通常のサーランギと同じ音にするためには太い弦を張らなければならず、そもそも駒の穴通りそうになかったので、1オクターブ上げて、C5、A4、C4にチューニングすることにしました。

上の表を使うと、1弦は0.25mm、2弦は0.33mm、これは手持ちにあるのでそれを使います。
3弦はエレキなら0.66mm(インチなら0.26くらい)、アコギ0.889(同0.35)くらいなので、0.30インチのギター弦を使うことにしました。
この弦は手持ちにないので、注文することに。
待っている間に、ナットを作ることにしました。

ナットの製作

上図を見てもらえばわかるんですが、弦が食い込んでいるんです。最初は鉄板かなんかかまそうかと思ったんですが、通常のサーランギはナットがあり、弦高がある程度あるのに対し、こちらにはないので、じゃぁつけちゃおう、ということで作りました。

でん!
メルカリで7mm厚の黒檀(エボニー)を購入し作りました。
ナットは消耗品のため、いつものようにタイトボンドでつけることはせず、普通の木工用ボンドをちょっとだけつけて接着します。(バイオリン工房で職人さんがそうやってたのでまねしました)

で、結論から言うとこれは失敗で、弦の垂直方向にかかる力に負けて、ボンドが剥がれてナットが下にずり下がってしまいました…
なので、角の所にかませらるように加工しました。

黒檀、超硬い…切るの大変でした。
写真は、ナットの裏側です。この溝を、先ほど弦が食い込んでいた場所に取り付けます。
例によってボンドを少し付けました。

完成!と思いきや…

で、そうこうしているうちに弦が届いたので、張ることに。
3弦がなかなか音が上がらず、頑張って回していると急に「ボキッ」って音がしました。
何事?と思ってよく調べてみたらなんと…

ペグが折れました。
こういう折れ方するの初めて見ました。
通常ペグって、硬い木を使うんですが、こちらは結構柔らかい木だったのでだめだったようです…

どうしようか悩んで、とりあえずタイトボンドでつけてみよう!ということでやってみました。

このクランプまじで使いやすいのでお勧めです。
で、これでもしちゃんとついたとしても、結局太い弦張ったらまた折れるのかなぁ…と思い、折れたところをほかの木材で補強することにしました。
最初は先ほどのナット作ったときに出た黒檀の余りを使おうと思ったんですが、合わせている間に折れちゃったので止めました。というか、そもそも力のかかる方向に木目が入っているで、使わないのが正解でした。
結局、以前息子に折られたペルナンブーコのバイオリンの弓を使うことにしました。

両サイドを彫刻刀で削って、そこにタイトボンドにペルナンブーコの粉を混ぜたものを塗りたくり、補強材を当てて、こうです。

ぐるぐる巻き。
ちなみにこれ失敗しました。
敗因は、恐らくぐるぐる巻きにしているから接着に余計に時間がかかるはずなのに、次の日にぐるぐるを外してしまったことです。

でもこの方法も怖いので、結局タイトボンド大量に流し込んで、補強材当ててクランプで止めました。
写真がないんですが、ペグの頭とお尻をクランプするのではなく、補強材を当てた部分をクランプで挟みました。

このホビークランプも何かと役に立ちます。
ホームセンターでも売っており、いろんなサイズもあるので、良かったらホームセンターにお立ち寄りの際に見てみてください。(ちなみにうちはこれ10個くらいあります)
で、出来上がったのがこちら。

あまりきれいな出来ではないけど、ちゃんと補強できたのでよしとします。
あまったタイトボンドを彫刻刀で削り、弦を通す穴も埋まっちゃってたのであけなおしました。
穴をあけたらドリルの刃にねっとりとしたタイトボンドがついていたので、まだ完全に硬化してないかもです。

弦、どうしよう?

さて、ここまで出来たらあとは取り付けるだけなんですけど、0.30インチの弦だと張力が強すぎてだめそうだったので、別の弦を使うことにしました。
何にしようか考えたんですが、ちょっと前にティラキタさんでシタールの銅弦を買ったので、インド楽器っぽくそれ使おう!と思いました。
買った弦は3種類、22、24、28番です。
ちなみにこの数字、ゲージかと思ってたら全然違うんですね。数値が小さくなるにつれて太くなっていきます。
どれを使おうか迷ったんですが(そもそも銅弦使ったことがないので、先ほどの表が使えない)、シタールのチューニングを参考にすることにしました。

ただ、シタールのチューニングって1種類じゃないんですよね…
更に、ネットで探しても音高が載ってないページが多い。
そこで見つけたのがこのページです。

なんとピアノの鍵盤も一緒に書いてくれてます。ありがたや。
なお、図の3弦は、PAの下に1点てすが、鍵盤の方はPAの下に2点あるので、図が間違えてるんだと思います。
シタールの1弦がMaの時、3弦はそれよりしたのPa。つまり、Sa=Cとしたとき、Ma=FでPa=G。
ちょうど1弦の1オクターブ弱下の音になるので、この弦がうってつけ、ということになります。
このページによると、弦のゲージは0.22インチ。だいたい0.56mmです。

ここで、ティラキタさんの弦はゲージではなく番手で書いてあるので、どれがいいかわかりません。

そんな時はマイクロメーターで測ります。
2弦(28番)は0.371mm、3弦(24番)は0.575mm、4弦(22番)は0.714mm。
先ほどのHPでは0.22インチ、だいたい0.56mmだったので、こちらの3弦0.575mmが使えそうです。

と、いう訳でめでたく弦も張って完成…なんですが、そういえば駒の形がだめでした。
演奏弦に角度がついていないので、2,3弦が弾けません。
なので、ちょっと穴を増やしました。

一番外側の4つの穴が新しくあけた穴です。
ちなみに、これだと3弦と1弦を結ぶ直線状に2弦が来てしまい、2弦が弾けないという事態に…
仕方ないので、3弦は左下の穴(もともとの3弦の穴)を使うことにしました。

完成!

完成したらチューニング。
共鳴弦はSa=Cからクロマチックにオクターブ上のSaまで。
共鳴弦のペグの形がアレなので結構チューニングしにくかったです。
ペグが折れた3弦も、恐る恐るチューニングしましたが、無事でした。

で、早速テスト弾き!

相変わらず適当に弾いてるだけですが…
インド古典はラーガという規則に従って即興する音楽で、難しいそうなので避けてるんですが、インドの民謡は覚えたいな。

と、いう訳で、お土産サーランギをメンテ・修理して、無事楽器として使えるようになりました!
以上、お付き合いありがとうございました!